マーク・Z・ダニエレブスキー 紙葉の家

アメリカの小説家、初の長編小説の翻訳版、初版は2002年12月20日

盲目の老人ザンパノが書いたネイヴィッドソン記録というタイトルの原稿を、タトゥー彫師のジョニーが発掘して紙葉の家というタイトルで出版したという体で書かれており、膨大な脚注と付属書が付けられている。

ネイヴィッドソン記録は家の外側と内側で距離が違う内部が異次元空間になっている家を手に入れて、その家に魅入られ探検隊を組織して調査に乗り出すという幻想的な怪奇譚である。

脚注が特徴的で、3人の人物が書いていてそれぞれ別の字体で書かれている。

1つめはザンパノ自身が書いた脚注で登場人物の言葉の引用を哲学者や科学の専門家などの言葉から引っ張って来ており、ザンパノが非常に博識な人物であったことがわかる。しかし精神に異常をきたしていると思われる箇所が多分にある。

2つめはジョニーが書いた脚注だが、ジョニーはザンパノの手記を出版することを自分の使命のように考えており、出版するにあたりザンパノの手記をできるだけ忠実に再現し、ザンパノのタイプライターであった女性たちにインタビューを行いザンパノの人柄について触れているが、本筋にほとんど関係のない?自分の話で紙面を侵食しており脚注が小説のようになっている。ジョニーも元々なのかザンパノに影響されたのか精神に異常をきたしていると思われる。

3つめは編集が書いた脚注で、分量的にはそれほど多くはないが、唯一絶対正しいことをいっている脚注と言える。

付属書はザンパノが他に残した手記や、ジョニーのプライベートな資料などで、編集脚注によると本書を読み解く手がかりとして欲しいとある。

 

結局真相は何だったのか?

話の中心にあるネイヴィッドソン記録は、ザンパノの妄想であり実際には存在しないものであるとジョニーは最初に注釈をつけているが、最後にはネイヴィッドソン記録が実在するように書いている。ザンパノに影響されて精神に異常をきたしたのか、あるいは、現実が幻想に取り込まれたのか、800ページも何を読まされていたのか?

答えはないがいろんな解釈が出来るのが本書の面白さだと思う。

 

ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

鏡の中の鏡 ミヒャエル・エンデ 訳 田村都志夫

作者ミヒャエル・エンデはドイツの児童絵本作家。

 

タイトルの鏡の中の鏡は、禅の説法にもある話らしいです。

 

鏡合わせをすると無数の鏡像が映り込む現象ですが、

 

各章が並行世界の話でそれが合わせ鏡の中の鏡像のようになっている、

 

という意味と受け取りました!

(人によって解釈が違いそうですが^^;)

 

本書は30の章と19の挿絵からなっており、

それぞれ登場人物も背景も異なる独立した短編小説のようにも読めるが、

全体として一つの物語とも読める構成の幻想的な作品になっています。

 

各章において登場人物も背景も基本的には全く関係ないように見えます

(最後の章で最初の章の登場人物の名がようやく出てくる)

 

最初は手探りで訳もわからずに読み進めますが、

途中で章ごとの繋がりが見えてくるだろうと思っていると、

ある章で作中作のような文章が出てきてギョッとします\(//∇//)\

 

また別の章では登場人物が斜め文字でこれは夢だと語り出し、

メタフィクションのような構成になっておりました!!

(奇書とは聞いていましたが大好きな方面でした!!)

 

300頁超の物語が終わると各章と挿絵のタイトルが載っていますが、

タイトルは各章の冒頭の数センテンスから取られているようです

(各章の始まりは章番号しか書かれてておらず何故か太字だった)

 

物語もウロボロスのように頭と尾が繋がった構造で、

本字体に仕掛けがある遊び心みたいなのがいいですね〜(*^◯^*)

 

解説を読むと挿絵を担当しているのは作者の父親で、

シュールレアリズム画家でもあるエドガー・エンデという方らしいです

(最初は作者が絵も描いてるのかと思いました!)

 

作者が話に合うような挿絵を選んだのか、

挿絵の方を元ネタにして作者が話を作ったのか・・・気になります!

(父親が作者か息子が作者か(鶏が先か卵が先かみたいな?))

 

色々な妄想を思い巡らすことができるのも奇書たる所以ですかね(*^◯^*)

 

・・・・

 

ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

 

 

 

 

物語 ウクライナの歴史 黒川祐次

著者は外務省に勤務しウクライナに駐在されたと言う経歴のある方で、日本とウクライナの歴史についても詳しく、この本にも戦後の芦田首相が外交官として交友があったことなどを書かれている。現在のウクライナ情勢を理解するために読んだが世界史に不慣れで読むのにすごく時間がかかってしまったがウクライナの歴史を知るのにとても良い本だと思う。

 

現在のウクライナの土地にはスキタイ人と言う先住民がいたが3世紀半ばには滅んでいる。その後879年ごろにできたキーフ・ルーシ公国を始めとする複数の公国は周辺国からの流入によって出来た寄せ集めの国家だ。

 

キーフ・ルーシ公国は1240年モンゴル帝国により陥落、周辺公国の一つであるハーリチ・ヴォルイニ公国はそれから1世紀近く存続した後、14世紀半ばにハーリチがポーランド、ヴォルイニがリトアニアに占領された。

 

ウクライナの起源をどこに置くかでロシアとウクライナの間で意見が分かれるが、ウクライナ側は、ハーリチ・ヴォルイニ公国を起源と主張しているという。最初のウクライナ国家は14世紀半ばに滅びたが、ポーランドは民族運動を弾圧したが、リトアニアは寛容だったためキーフ・ルーシ時代の言葉・慣習がロシアに支配されるまで200年近く残った。

 

ポーランドリトアニア時代には領主の農民への締付けにより、ウクライナ南部ステップ地帯遊牧民コサックと合流、16世紀にコサック(ヘトマン)国家を形成。1651年ポーランドに敗れ、同じく周辺公国の一つであったモスクワ大公国(ウラジミールスーダリ公国)と同盟国と協定を結ぶがこれが破滅への一歩となってしまう。1667年モスクワ大公国ポーランドウクライナの分割を恒久的に確約すると言う協定を結んでしまい、1709年にモスクワに戦いを挑むも敗れ、1783年にはヘトマン国家は消滅、ロシア・オーストリア両帝国の支配となる。

 

ロシア帝国下ではウクライナ民族弾圧が進んだため、オーストリア帝国下では啓蒙活動が進み民族主義活動が進んだ。しかし第一次世界大戦下の1914年ハーリチナのロシア占領により弾圧を受ける。1917年2月革命によりロシア帝政の崩壊とソ連の樹立のゴタゴタにより、ウクライナのロシア内での自治を認められ、ウクライナ・ソヴィエト共和国(傀儡政権)が樹立。西ウクライナを中心としたウクライナ民共和国を独自に樹立したが、1919年ロシア・ボリシェヴィキ政権に敗れ独立闘争は閉幕、束の間の独立であった。

 

ウクライナ・ソヴィエト共和国ではスターリン政権下では搾取と飢饉、粛清による大虐殺が行われ、ポーランド支配の西ウクライナでは民族活動が行われる。第2次世界大戦時1939年、ソ連ポーランドに侵攻、ハーリチナ・ヴォルイニ地方がソ連編入モルドヴァ共和国を除いてウクライナは再統合される。1990年ロシア、ウクライナがそれぞれ主権宣言を行い、ソ連解体とそれに伴うウクライナ独立が国際的に承認された。1991年国民投票が行われウクライナの完全独立について各州で投票が行われロシア人の多いクリミアを含め全ての州で過半数を得る。ウクライナにとってはロシアからの350年来の流血を伴わない喜ばしい独立であるが、この独立は当時のロシアの内政がゴタゴタしていたためでウクライナにとっては棚ぼたであったろうと著者は言っている。現在2022年のロシアのウクライナ侵攻の一員としてソ連解体時に手違いがあったとプーチンも言っている。

 

ウクライナは地形的にモンゴル帝国、トルコ帝国、東ローマ(ビザンツ)帝国、ロシア帝国と列強に囲まれ、ウクライナ人は歴史的にいつの時代も戦火に巻き込まれていたとわかる。しかしそれに巻き込まれるウクライナの人達はたまったものでないだろう。一刻も早い平和的な解決を望みます。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

 

 

 

 

ポピュラー音楽の社会経済学ー高増明 編

筆頭著者の高増さんはインディーズレーべルの社長として音楽業界に携わっており、学生バンドのスカウトや、大学のゼミも受け持っており、共著者の二人はゼミの学生であるとのこと。

 

音楽業界を取り巻く状況について、様々な観点から紹介している。

アーティストの契約問題や音楽流通での関係者のマージンなどは業界人らしい視点と言えるし、公共財として音楽を捉える、日本経済の歴史が音楽に与える影響などの視点は社会学経済学研究者といった感じがする。

また海外と日本の代表的なバンド名を挙げその影響や、テクノロジーの発達による音楽業界の変遷などについても丁寧に説明されており、大学で教鞭をとっておられるだけあって大変分かりやすかった。

 

何故JASRACに金を払わなければいけないのか今まで謎だったが、一応アーティストに還元する仕組みとして存在しているということは了解した(自分が無知だっただけが)。

 

一方で日本はフランスや韓国のように国が音楽文化に援助する仕組みや、米国のようなチップ文化があるわけでもないので音楽で食べていくのはとても大変だと分かった(日本で音楽では食べていけないとよく言われるのはこういう事情もあるのだなと思った)。

 

この間忌野清志郎さんの本で、バイトと両立している人がバンドで成功してる人を見たことがない、と書かれていたが、これでは日本で音楽は育たないよなと思う。

 

それでも音楽が好きでライブとかで楽しませてくれる人たちには、最近よくある投げ銭とかクラファンとかで援助してあげるべきだなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソ連歌謡ー蒲生昌明

 

今何かと話題のロシア、ウクライナ等の国の前身、ソ連東欧諸国連合の音楽事情について、ソ連向けの日本ラジオの愛聴者であるという作者が代表的なソ連歌謡についてまとめた本。

 

来日したこともあるソ連美空ひばりとか、セクシー過ぎてテレビ出演禁止になったソ連のマドンナとか、紹介文がみんな面白くてどんなのか聴きたくなってしまう。

 

そういう人のために英語表記のアーティスト名も載っているからYoutubeとかでほとんど見つかる。

 

第1章はシャンソンっぽい曲が多い気がする。日本の戦後のりんごの歌みたいな曲が多い。

 

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ソ連美空ひばりことLudmila Zykinaさんの80歳の誕生パーティとのこと。途中の足先まで隠れたスカートの民族衣装の女性が踊りながらLudmillaさんにお辞儀をしていくのとか、水兵さんがポルカ風の音楽でラインダンスを披露し、本物の軍人マーチング演奏などが行われるのに見入ってしまった。Ludmilaさんは最後に両手を若い金髪男性に支えられながら歌われるだけだが野暮ながらご高齢なのだからもっと静かにお祝いしてあげたらいいんじゃなかろうかと思ってしまった。なおこの時代の方達は現在はほとんど亡くなっているようだ。

 

第2章はVIAと呼ばれるグループサウンドが中心。ソ連ではロック音楽自体はありふれているが、反体制という意味のロックという言葉を認めておらずVIAという言葉になっているという。ビートルズに影響を受けたバンドが多いのか、ロシアンビートルズというバンドまである。

 

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ビートルズやDoorsの影響を受けているというSamotsvetyの「僕の住所はソビエト連邦」という曲。複数名男性のコーラスやハードロックっぽいギターはいかにもそれっぽい。

 

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Vladimir Migulyaさんの庭の草という宇宙飛行士の歌でロケット打ち上げの際にはこの曲が流れるらしい。ツインギターを弾いている彼は日本でも通じる細身でやさ顔のイケメンだが、ロシアの女の子はマッチョが好みで客層は主におばさん世代が多かったらしい。しかしVladimirさんは恐ろしい事件に巻き込まれ命を落としておりその生涯はかなりハードだったようだ。

 

第3章は映画音楽が中心、戦艦ポチョムキン惑星ソラリスなどのソビエト映画で流れる映画音楽を彩った音楽とのこと、題名は聞いたことがあるが映画自体未視聴なのでなんともいえない。コラムでソビエトの誇る偉大な作曲家ショスターコヴィチは、国から粛清されるかも知れないという恐怖の中で曲をつくっていた、いうこと。音楽的な特徴はあるのかないのかよくわからなかった。

 

第4章ではソビエト圏でもロシアに属していない国の音楽を集めている。

 

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カザフスタンラトビアのzodiacというグループはラトビアYMOと呼ばれるテクノポップグループだが、アルバムジャケットといいジャーマンプログレの様相がある。

 

・・・などなど、他にも濃いアーティストがいっぱいでしたが、驚くことに誰一人として名前を知っているアーティストがいなかった。でもソ連歌謡が日本人に全く馴染みがないかといえばそうではなく、有名な百万本のバラの歌はソ連歌謡で、日本の紅白歌合戦に出場した人もいたらしく目から鱗だった。

 

また著者のマニアックな情報でたくさん笑かしてもらい、たくさんの良い音楽にも出会うことができ、大変に興味深い本でした。同じシリーズで共産テクノソ連編と東欧編なる本も出ているとのことでそちらも要注目ですね!

 

 

 

アンビエント・ドライヴァー 細野晴臣

細野晴臣さんは日本語ロックの草分け的存在のはっぴぃえんどのベーシスト、世界的なテクノバンドのYMOメンバーです。

 

この本は細野晴臣さんが自ら書かれたエッセイ集のようで、全体的に先生が生徒に教えてくれうような感じで、文章からとても暖かい人柄という印象を受けました。

 

最初のうちはUFOを見た話、ローリング・サンダー、元気になる水など不思議な人かと思ったが、MacOSXの前のMacが良かったこと、身体と精神の自律神経と副交感神経への作用、超ひも理論と話題は尽きることなく、とても博識な方だと分かります。

 

また自分が知らなかったこととして、銀河鉄道の夜メゾン・ド・ヒミコなどのアニメや映画音楽等も手がけておられること、また自分も愛聴しているアイスランドムームというエレクトロニックバンドとも親交があることなどが知れ、細野さんのことが急に身近に感じました。

ロックで独立する方法 忌野清志郎

忌野清志郎さんは父親に連れられて見にいったライブビューイングというのか、ドキュメンタリー映画RCサクセション時代の曲を聴いて以来のファンです。

 

この本は2000年頃のインタビュー記事をまとめたもので、清志郎さんがこういうタイトルで若者向けの本を作りたいねということで作られたという。

 

前半は1970年RCサクセションデビュー頃と、本が書かれた当時の音楽的環境の違いについて語られており、自分自身の経験を元にどうすれば大好きな音楽を生業としていけるか悩める若者へのアドバイスとなっている。

 

後半ではRCサクセション時代のメンバーの話とか、解散のきっかけといった話が載っており、昔から追いかけてきた人ならば常識なのだろうが個人的に知らないことが多くてそちらも興味深かった。

 

意外だったがRCサクセションは最初はフォークソングのグループだったという。

デビュー曲は宝くじは買わないという曲で、アンプは使用しておらずフォークギターとベースはウッドベースを使っているらしい。最初はドラムが不在でリズムセクションをギターで補ったからRCサクセション独特のパーカッシブなギターサウンドが生まれたのだという、なるほど!

 

清志郎さんはビートルズの影響をもろに受けている世代だが、ビートルズも同じように地元のバンドマン仲間が始まりで、RCサクセションも地元のバンドマン仲間で作られたものだから不思議な巡り合わせだといっている。

 

またビートルズとはバンド解散の契機にも共通点があり、ビートルズは結成当時のライブセッションを再現したゲット・バックセッションでのメンバーの不和により解散につながったが、RCサクセションの場合も、結成当初に持っていた既存の音楽に縛られないアグレッシブな曲作りに挑戦するというコンセプトで作ったカバーズというアルバムレコーディングがきっかけだったそうだ。

 

世の中にはバンド指向と人とソロ指向の人がいて、清志郎さんは最初からバンド指向だったようだ。それはやりたい音楽がバンドサウンドだったというだけでなく、最初はわからないことだらけで不安だったので、仲間がいると安心だったという。

 

ただ長く続けているとメンバー間の不和が大きくなりーー元々メンバー同士はそれほど仲が良かったわけでなかったということ、また音楽業界に慣れていくと自分一人でもやりたい音楽をやる方法が分かり皆ソロ指向になるものだという。

なるほどだからビートルズもバンド解散した後、それぞれがソロ活動するのだな。

 

この本を読んで忌野清志郎さんは音楽に対してとても真摯な方だったのだなと思いました。